備前焼の魅力
自然への回帰と備前焼
冷蔵庫の中は食品で溢れ、電子レンジによる冷凍食品の解凍や、インスタント食品による簡素化された調理。現代の食生活は、機能性や利便性の上に成り立っています。
重くて扱いにくい陶器に取って代わったのは、軽くて扱いやすいプラスチック製品や、使い捨てに適した紙製品でした。便利になった結果、食卓は殺風景になり、食事は味気ないものとなりました。楽しみであった食事は、ただ摂取するだけの食事へと変化してしまいました。
時を経て、いつしか人々は、潤いのある光景を食卓に取り戻そうとするようになりました。自然への回帰を求めるようになり、味気ない食卓にも自然を求めたのです。とりわけ質素で土に近い備前焼は、短所がそのまま長所になり、自然回帰の流れに乗って、再び求められるようになりました。備前焼の器によって、食卓に自然が取り戻され、潤いが戻って来たのです。
魯山人と備前焼
元々、備前の徳利は酒を旨くし、備前の茶器は茶室にふさわしく、備前の花器は花を引き立たせると言われてきました。しかし、一人の男の出現により、備前の価値はさらに高められました。その男の名は、北大路魯山人(1883~1959)。
美食家として知られる魯山人は、実に多彩な才能を発揮しました。料理家、画家、書道家、篆刻家、漆芸家、そして陶芸家など、様々な顔を持っていました。晩年に備前の土に出会った魯山人は、幾度も備前の地に赴き、実際に備前を制作しました。制作しているところを見る機会のあった備前焼作家たちに、彼は多大な影響を及ぼしたと言われています。
備前好きが高じた魯山人は、鎌倉の自宅に備前の窯を作り、作陶しました。それほどまでに、魯山人は備前焼を愛していました。花器でも食器でも、備前を使う前には、必ず水を掛けさせたといいます。魯山人は、水に濡れた備前の美しさをよく知っていたのです。